ぴろりのくせになまいきだ。

世間に平和はおとずれなぁい

Ergotonic49を作った話

前々回の記事で、『2つ目を作っていたら生暖かい目で見守ってください。』といっていたのは記憶に新しいところですが、作りたくなったので、2台目を組み立ててみました。
今回作ったのはこちらのErgotonic49*1です。

完成した図

間のスペース(通称「仏陀スペース」らしい)に何か置けて良いですね。エンジェルカービィちゃんかわいい。

作者さんの解説もご覧ください。
coal.hatenablog.com

前々回の記事はこちら
piroriblog.hatenablog.com

前回の記事はこちら
piroriblog.hatenablog.com

なぜ二つ目を?

ぶっちゃけ作ってみたくなったからです。
他の形のものも試してみたかったのと、他のスイッチなども試してみたかったからです。
また、前回は特にこだわりもなく普通に組み立ててしまったため、やや消化不良感もありました。
前回作ってから、自作キーボード関連の情報は収集していましたが、その中で面白そうなキットを発見しました。
coal.hatenablog.com
「Willow配列」と呼ばれる配列の分割型キーボードですが、これのもととなった「Ergotonic49」を見ていたところ、いろいろと要求を満たすだけでなく、そもそもカッコいいと思い、分割のほうでなく一体型のこちらを組み立ててみることにしました。

簡単なビルドログ

作者さんの丁寧なビルドログ*2があるので詳細はそちらをご覧いただくとして、個人的に苦労した点などを残しておきたいと思います。
今回、上記の写真の通り、ロータリーエンコーダを二つ使いました。
また、スイッチはHako Violet*3と、Kailh Box V2 Switch / White*4を混用しています。

はんだづけ

表面実装タイプのダイオードで組み立てるのは初めてだったので、最初はその小ささに面食らいました。
しかし、やってみればそこまで難しいこともなく、意外と何とかなりました。予備はんだをしておいて、予備はんだを温めながらダイオードの足をはんだづけするという例の手順です。ちなみにこの作業のためにピンセットは購入しました。さすがにピンセットなしで組み立てるの不可能に近いです。

LEDに苦労した話

表面実装タイプのダイオードまでは良かったんですが、インジゲーター用のLEDと、アンダーグロー用のLEDのはんだづけは結構苦労しました。

意外と小さいLEDの図

使ったLED*5が熱に弱いらしいというのは聞いていたので、ビビりながら作業していたのですが、それがかえってよくなかったようです。
どうなったかというと、ランドの加熱が不十分な状態ではんだを乗せようとしたので、ランドにはんだが濡れ広がらず、LEDの足だけについてしまうという状態になる場合がありました。
そうなると、もちろんそのままでは接触不良の状態ですので、ランドとLEDの足を何としてはんだづけしなければなりません。その状態で焦ってさらにはんだを足したところ、はんだの量が過多となってしまい、さらには、LEDの足を短絡させてしまったところもありました。
そうなってしまうと、はんだ吸い取り線ではんだをリセットするしかなく、はんだを吸い取りながら「ああ、このLEDは壊れたな……」と思っていました。しかし、はんだを吸い取って再度付け直したところ、普通に生きていました!
これから得られた教訓は、一般的に言われているようなはんだ付けの手順をちゃんと守ろうという話で、ちゃんとランドは温めようね、ということです。具体的には、LEDの足を直接温めるのはさすがにNGかもしれませんが、ランドを通常通り1~2秒温める分には全く問題がなさそうということです。ただし、1つのLEDの4本の足を順にはんだづけするのは避けた方がよさそうな印象です。さすがに周辺の基板もそれなりの温度になってしまうと思うので。

ミドルプレートの作製に苦労した話

今回、LEDをつけるだけだけならそこまで大変ではなかった、と今なら思います。
今回何を他にやったかというと、打鍵感および打鍵音を向上させるために有効とされている、プレートとプレートの間に挟むミドルプレートの作製を行いました。
先に言っておきますが、よいこのみなさんは、アクリルをレーザー加工してもらうようにしましょう。費用対効果としてはそっちの方がよっぽどましです。
何をやったかというと、これに準ずるものを6枚作成しました。

ミドルプレートの例

そもそもこのErgotonic49はスイッチの穴だけで49個あるので、その他の穴も含めて400箇所近くの穴開け加工を行いました。すごく大変でしたし、それだけで土日が吹っ飛びました。
また、ゴム製のシートはカッターで切れるのでまだよいのですが、樹脂製の板はカッターでの加工が難しいです。特に細かい加工は不可能に近いです。

そこで今回、樹脂製の板の加工は、ホットナイフで行いました。ホットナイフとは何かという話ですが、有り体に言えば、はんだごてのこて先をデザインカッターの刃がついたものに換装したものです。はんだごてのヒーターでデザインカッターの刃を温めているものになります。
刃先はそれなりの温度になるので、樹脂の軟化点を上回り、力をかければ簡単に変形します。そうすると、樹脂板などを「溶断」できます。
この、「溶断」というところがやや曲者で、ミドルプレートのような厚みがシビアなものは、バリが存在していると基本的にNGです。
ご想像に難くないのですが、「溶断」すると、バリが発生します。レーザーであれば樹脂はアブレーションされていくでしょうから、切った部分の樹脂はどこかに行ってしまいますが、「溶断」の場合は、切った部分の樹脂が押しのけられるだけなので、切断面付近にバリが発生します。
このバリを取り除くのが非常に大変でした。
あと、小型のルーター*6は持っていたので、これで細かい加工は行いました。これが意外と優秀で助かりました。
でも、仮に次回樹脂板を加工してミドルプレートを作製する場合、樹脂板の加工は、レーザー加工を発注すると心に誓いました。1枚ならまだいいですが、複数枚となるともうやりたくありません。
ただし、ゴム板の加工は、おそらく手でやるしかないんだろうなあと思います。

今回のプレート構成

今回のプレートの構成としては、上から順に以下のようにしました。厚みがばっちりでよかったです。
・トッププレート(付属品:1.6 mm厚のFR4)
・ミドルプレート1(1 mm厚のハネナイト*7 )
・ミドルプレート2(1 mm厚のPET)
・ミドルプレート3(0.5 mm厚のゴムシート)
・ミドルプレート4(1 mm厚のハネナイト)
・PCB(付属品:1.6 mm厚のFR4)
・ミドルプレート5(1 mm厚のPET)
・ミドルプレート6(1 mm厚のPET)
・ボトムプレート(付属品:1.6 mm厚のFR4)
・ゴム足(余ったハネナイト)

打鍵感などに関しては、後段で記載します。

キーマップ変更

この機種は、「Remap」に対応しています。
おかげさまで不慣れなわたしでも非常にスムーズにキーアサインができました(作者さんとRemapの開発者さん、本当にありがとうございます)。
ロータリーエンコーダにも対応していますが、これが思ったより便利だったので、結構おすすめです。
詳細は、後段で記載します。

なお、それ以外に関しては、組み立てやすいキットであり、特段困った点もありませんでした。

使用感など

以下、実際に使用しながらの感触を書いていこうと思います。

Willow配列はどうか?

Willow配列は一見不思議な配列ですが、使ってみるとかなりすんなり打てます。
通常のカラムスタッガードよりも打ちやすいと個人的には思います。指を自然に曲げると、そこにキーが存在している感じがあるので、見た目よりはとっつきやすいと思います。
また、「T」列と「Y」列が若干下がり気味に配置されていて、これにより、「T」と「Y」が打ちやすく感じます。日本語入力ではそれなりに使うキーなので、結構恩恵は大きいと思います。
タイピング練習サイトで打鍵速度を測定してみましたが、すぐに現状と変わらないくらいの速度を出すことができました。カラムスタッガードに慣れている人であれば本当にすぐ慣れると思います。

ロータリーエンコーダの話

ロータリーエンコーダを親指付近に二つ搭載したのですが、思ったよりこれが便利です。
日本語って結構前に戻って書き直すことがあるものと勝手に思っています。そうすると、比較的頻繁にアローキーを押すことになると思います。また、変換の候補選びにも上下のアローキーを使います。
今回、わたしはアローキーをロータリーエンコーダに割り振ってみました。
これが想像以上に便利で、今後ロータリーエンコーダが搭載できるものには搭載してみようと思いました。

また、レイヤー毎に異なる機能を振ることもできるので、スクロールやマウスカーソル移動、アプリケーション切り替えにも割り振ってみました。
マウス操作もできるので、原理上は全くキーボードから手を放さずに作業ができることになります。さすがにマウスを使ったほうが速い場面のほうが多いと思いますが、ちょっとした移動とか、ちょっとしたクリックなどが、キーボードから行えるのは結構便利です。

なお、今回はロータリーエンコーダ用のノブとして20 mmのものを採用しました。
規格上は、キーキャップとノブの間に25 μmの隙間ができる計算となりますが、キーキャップの側面は多少斜めになっているので、ギリギリ干渉しないのではないかと考えて20 mmのものを採用しました。
結果としては、本当にギリギリ接触しないサイズ感でした。
どのキーボードでもいけるとまでは言えませんが、一本の指で回したい場合には大きいノブのほうが楽ですので、可能な限り大きいものをチョイスするのも手だと思います。少なくとも、1uの規格が19.05 mmとどこかで見ましたので、19 mmであれば干渉はしないはずです。

20 mmのノブだと、ちょっとした操作は親指のみまたは人差し指のみで行うことができます。
ただ、結局二本指でつまんで操作している場面もそれなりに多いので、14 mmとかでもよいとは思いますが、ご参考までにということで。

ミドルプレートの効果はあったか?

本当は色々実験しながらどのような構成とすれば最もよい打鍵感になるか、また打鍵音がどのように変化するかを試したかったのですが、ミドルプレートの作製に結構エネルギーを持っていかれてしまったので、細かい実験はしていません。
一方で、上記の構成とした状態では色々打鍵しながら試してみたのですが、確かに、キーボードと机との間に空間が存在していると結構反響音が響きます。
サンドイッチマウントはあまり反響音が問題にならないといわれますが、確かに間の空間を埋めてしまったほうが打鍵音は響かなくなりそうです。
逆に、キースイッチと机の間に空間がないので、打鍵によって生じた衝撃や音は、(多少はハネナイトが吸っているにせよ)ダイレクトに机に伝わります。したがって、机とキーボードとの間に何かしらの衝撃吸収材や吸音材を設ければ、打鍵音対策としてはほぼパーフェクトだと思いました。

また、上で説明したように、間に空間がない構成としているので、かなりソリッドな打鍵感になっています。前に作ったErgodashは、トッププレートがアクリルなのもあって、結構たわむのが感じられますが、今回のものはそのようなことがなく、安定感があります。キーボードを多少曲げようと思っても、びくともしません。
一方で、衝撃吸収を担うものをいくつか入れているので、反発が強いということではなく、硬めだが痛くない打ち心地となっています。

したがって、やや自己満足な部分もありますが、ミドルプレートの効果はあったものと思います。
余裕がある方は試してみてはいかがでしょうか。ただし、可能な限りはレーザー加工に出すことをお勧めします。

アンダーグローはいいぞ

何故ボトムプレートとPCBの間にPETを挟む構成と取っているかというと、アンダーグローの光を見せるためです。
ボトムプレートを透けさせればもっと光りますが、今回はとりあえず間を透明とするようにはしたかったので、苦労しながらもそのような構成としました。
間に挟んだPETは、粗目の番手でやすりがけをしたままとし、フロストっぽくしています。これにより、光がやや散乱されてマイルドに光ることを期待しました。結果として、狙い通りにまぶしい感じはなくなり、全体的にぼんやり光るようになりました。
苦労した甲斐がありました……
また、アンダーグローは控えめに思うかもしれませんが、結構派手できれいです。搭載できる機種の場合にはつけてみてはいかがでしょうか。LEDもそんなに高くはないですし。

Hako Violetはいいぞ

今回のスイッチは、Hako Violetにしました。
前にもこれにしようと思っていて結局静音タイプにしたのですが、今回は多少うるさくてもいいやと思ってこれにしました。
タクタイル感はそれなりにありますが、全体的に軽めなので、かなり軽快です。軽いのは軽いので正義だなあと思いました。
音はもちろんキーキャップによりますが、やや高めの軽快な音がします。高級感あふれる音ではないですが、耳障りな音という感じでもなく、小気味よい印象です。

また、今回は、キーボード全体をソリッドにしつつ、キータッチは軽くしたいというのが狙いでした。
下を硬めにした場合、上は軽いほうが相性がよいかなあと個人的には思います。下を硬くして上を重くすると、跳ね返ってくる衝撃が大きくなるので、やや疲れやすいキーボードになってしまうのではないかと推察します。

クリッキーも意外といいぞ

Hako Violetだけで作っても良かったのですが、クリッキーも使ってみたかったので、Kailh Box V2 Switch / Whiteを連打しないキーに置いてみました。
また、今回のキットはソケット式なので、困ったら差し替えればいいやという軽い気持ちで購入してしまった感はあります。
初めての白軸系を使った感想としては、多少のタクタイル感はありますが、触覚によるフィードバックよりは、当然音によるフィードバックのほうが大きいなあという印象です。音によるフィードバックは、思ったより心地よく、周りを気にしないなら全部これでもいいかもしれないと思うレベルです。確実に押されたか否かが分かるので、押したつもりだけど押されていなかった、という状態になりにくいです。
うるさいかもなあと思いつつ導入してみましたが、アルファキーに割り振らない限りは大丈夫でしょうという気がしてきています。マウスのクリック音とさして変わらないレベルです。ただ、これは結構な静音化対策をしているおかげかもしれないです。実際、構造の関係でちゃんと静音化用のシートがあまり入っていないエスケープキーのクリック音は、割と響きます。
これもミドルプレートの効果はあった証左だと思っています(思いたいです)。

おわりに

今回も苦労はしましたが、楽しい電子工作でした。
先人たちと、このキーボードの作者の方には感謝です。

この記事は、組み立てたErgotonic49で書きました。