はじめに
自作キーボード初心者が、3Dプリントを使ってケースを作製し、SU120*1を使ってキーボードを組み立てた話です。
またやるかは別として、備忘録として残しておこうと思いました。
組み立てたキーボードの名前は、2台目を作る予定も特にないことから何も考えていませんでしたが、後述するコンセプトを達成するための手段としてかなり特徴的な形状をしていますので、その滑り台のような形状とキー数から「SLIDE62」と呼ぶことにしました。
やや怪しい部分もあるかと思いますが、ご参考までにということでよろしくお願いします。
コンセプト
今回組み立てたSLIDE62のコンセプトを一言で表すと、「指を曲げるとそこにキーがある」です。
これを実現するために、以下のような形状にしています。
見ていただくとわかるように、手前のキーになるにつれて角度が急になるようにキーが生えています。また、傾斜の方向は、人間側から見て下り坂となるようにしています。
さらに、パームレストがキーよりも高い位置に設定されています。
この形状による効果は、手前のキーが非常に押しやすくなることだと思っています。
指を曲げた位置にキーが配置されているので、いわば「指を引くように」打鍵できます。力も入りやすいですし、前腕への負担もかなり少なく感じます。
なぜこのような発想に至ったかは、後段で詳述します。
また、ロータリーエンコーダ楽しいじゃんと思ったので、より使いやすいと思われる位置に配置し、直径30 mmのノブが使えるようにしました。
ホームポジションから全く手を動かすことなく軽い力でカリカリできるので、結構快適です。
親指キーに関しては、人間の指の構造的に、下に向かう方向に動かしやすいのは百も承知ですが、そのように配置すると、下の方に動かす→向こう側に押すようにして打鍵するという二段階の動作になるんじゃないかと思いました。
そこで、親指キーは、パームレストが高く設定されていることも加味して、ほぼ水平方向に並べるようにしています。結果、親指を斜めに動かせばすぐに打鍵できるようなアクセス性となっていると思います。
着想に至るまで
通常、手前の方のキーを押そうと思うと、手全体を移動させて打鍵するか、手の甲を持ち上げながら指を立てて打鍵することになると思います。私個人の意見ですが、できる限りホームポジションから手を動かしたくないので、前者の方法はなるべく採用したくありません。そうなると、後者の方法で打鍵することになるのですが、中指などの長めの指で打鍵するには、やや窮屈な感じがします。また、手の甲を持ち上げる必要があるため、やや前腕に負荷がかかります。
別にキーボードを使っていて疲れるということは特にないのですが、何が一番楽なんだろうと考えていたときに、ふと「指を曲げるだけで打てるようにしたらいいんじゃないか」と思い立ちました。
そこで、簡単な実証として、このようなものを作ってみました。
これを作ってみて、これは結構自然な動きで打鍵できるなと思い、このコンセプトを試してみようと思いました。
なお、上記のコンセプトは、ゼロから思いついたわけではありません。
市販品として、すでにこのような商品があります。
www.ergonomics.co.jp
見ての通り、お椀形状をしており、各キーが手のひらの下となるように配置されています。
したがって、今回作製したSILDE62のコンセプトは、これを見て、「もしかしてもうちょっと楽に打てるようにできるんじゃないか」と思ったのがきっかけだったと思います。
何故3Dプリントまでしようと思ったのか
実は、最初、立てた2枚のアクリル板の間にキースイッチを挟むようなモジュールを用意し、それを連結することを考えていました。要するに、スチレンボード工作で作ったキーの列を、横に並べていく形です。
しかしながら、実際に組み立て可能なように設計しようと思うと、板を組み合わせて作ることによる種々の制約に気づきました。
また、もともとパームレストはかなり高い位置に設定しなければならないことはわかっていたため、そもそも板を組み合わせて作ったとしても、それに合うパームレスト(約8 cm)を用意するか、アクリル板で既存のパームレストが設置できるようにしてやる必要があると考えていました。
さらには、まあまあな数の部品を用意する必要があるため、アクリル板の加工代もバカになりません。
そうすると、設計の自由度と費用を考えると「一発でできる3Dプリントでいいんじゃない?」と思い、やってみることにしました。
モデルの作成
3Dモデルは、フリーでも使えるfusion360*2を使用して作成しました。
3DCADはおろかCADを触るのは初めてでしたが、基本的に面を作ってそれをどうにかするのね、ということを理解してからは結構楽しかったです。
作成手順とすると、紆余曲折はありましたが、概ね以下のような感じで進めたと思います。
- キースイッチにキーキャップをつけたものを作る
- キースイッチを配置する
- キースイッチが配置されたところに沿うような曲面を有するボディを生成する
- ボディをキースイッチ配置面に合わせて削る
- ボディをステッチ解除して必要な面だけ残し、各面に厚みを持たせてシェルを作る
- キースイッチを配置する部分の厚みを持ったパーツを作る
- 作ったパーツとシェルをうまくくっつける
上記の過程で、必要でない面が残っていてステッチされなかったり、そもそも閉じた曲面になっていなくてステッチされなかったりして結構苦労しましたが、なんとなく要領を得たので、再度別のモデルを作ることはやぶさかではないかなあといった感じです。
困ったときは、検索すれば大抵は公式のヘルプが出てきたので、そこまで大ハマりすることもなかったように思います。
でも、最初は曲面だらけのモデルではなく、単純な面で構成されたモデルにすることをお勧めします。それなりには大変でした。
発注先など
作ったモデルは、DMM.makeさんにお願いして3Dプリントしてもらいました。
make.dmm.com
素材としては、Resin A1 Proにしました。安かったのと、そこそこ丈夫そうだったのが理由です。光造形系の素材です。
make.dmm.com
なお、ナイロンなどは、おそらくバウンディングボックス(造形物がぎりぎり入る直方体)の大きさによる料金が大きいためか、光造形系に比べて3倍以上の値段であったため、さすがにそちらはやめました。
ちなみに、モデルをアップロードすると、造形可否と各素材で造形した際の見積もりが出るので、造形するまで値段が分からない、ということはありません。
また、夜中に送ってもすぐに結果が返ってくるので、自動見積もりだと思われます。
今回は左手分と右手分を別々に注文しましたが、いずれも注文してから約2週間で届きました。
造形物の品質としては、かなりなめらかな質感で、各寸法もばっちりでした。かなりなめらかだったので、特に後加工もせずにそのまま使っています。
素材としては比較的硬質な部類で、今回は5 mm厚となるように作ったせいもありますが、びくともしない安心感があります。もしかしたら3 mm厚くらいでも十分な強度が出ていたかもしれません。
ちなみにちなみに、三角形の穴がたくさんありますが、これは素材代の節約のためのものです。
光造形系の場合、モデルの体積そのもの(樹脂の重量)で結構値段が変わることが分かったので、少しでも減らそうとしてみました。
しかし、穴の内部にサポート材が形成された痕があったので、取り除いてもらうのは大変だったかもしれません。中の人にはごめんなさいしておきます。
組み立て
あらかじめダイオードとソケットをはんだづけしたSU120の基板を錫メッキ線と銅ポリウレタン線で配線しておき、それをケースにはめたスイッチに取り付けていく方法で組み立てました。
奥まったところも存在するため、はんだづけを神経質にやりたくなかったのがその方法を採用した理由です。
裏からの状態で配線するのもあって、両方とも左右を間違えましたが、まあなんとかなりました。
反省点
まず、小指キーの列をもう2 mmほど下げても良かったかなという点です。やや小指キーが押しにくいことがあります。
あと、使っていて「別に数字キー要らないじゃん」と思ったので、もっとシンプルでも良かったかもしれません。
また、キースイッチの出っ張りをひっかける溝をつけ忘れたので、キーキャップを引き抜こうとすると、まあまあな確率でキースイッチも抜けます。今度からはつけます。
他にも、親指クラスタはもう少し小指側に配置されていても良かったかなと思いました。慣れの問題もありますが、やや遠いと感じる場合があります。また、親指キーが生える向きはもうちょっと工夫できたかなと思います。たまに角が当たってしまいます。
なお、これは仕様ですが、上から見下ろすようにしないと全くキーが見えません。ブラインドタッチ以外お断り仕様です。記号キーとかはたまに困ります。
とはいえ、コンセプト実証モデルが作れたのでおおむね満足です。
今後について
この形状に可能性は感じるものの、私はいったん満足かなといったところです。したがって、特にこれ以上詰めることはないと思います。
ただ、今回のSILDE62を作る中で、様々な学びはあったので、今後の設計に活かしていきたいと思います。
次何か作るとしたら、立体的な指の動きを考慮した平面のキーボードを作ってみたいと思います。実際に3Dにしてみると、指ってこう動くんだ、という気付きがあったので、それを反映した配置を考えているところです。
ということで、参考になるかは怪しいですが、3Dプリントでエルゴノミック(?)キーボードを作った話でした。
最後になりましたが、SU120の作者の方、およびSU120を気軽に使えるようにしていただいたTALPKEYBOARDさん*3には感謝申し上げます。
この記事は、作ったSLIDE62で書きました。