世の中には小さいキーボードがある
皆さん、普段文字入力にキーボードは使っていますか?
もしお持ちのPCがノートPCなら、おそらくファンクションキー*1の行、数字キーの行、Qキーの行、Aキーの行、Zキーの行、スペースキーがある行の6行で構成されたキーボードが組み込まれていると思います。
つまり、おおよそ70キーほどのキーが存在したキーボードくらいは見慣れていると思います。
ここで、世の中にはそれよりもキーが少ないキーボードがあります。
まず、ファンクションキー行がないキーボードはあります。よく「60%キーボード」などと呼ばれます。
この時点でもずいぶんコンパクトですよね。

さらに、数字行までないキーボードもあります。さらにコンパクトでかわいいですよね。

市販品の参考:
Keychron Q9 QMKカスタムメカニカルキーボード(US ANSI 配列)keychron.co.jp
archisite.co.jp
この記事では、そうした数字行までないキーボード(以下、「40%キーボード」ともいいます。)の魅力と、それをどうやって使っているのか、という話をしたいと思います。
キーボード沼の住人向けというよりは、ちょっと興味がある方向けに執筆しましたので、ぜひ気軽に読んでいっていただければと思います。
40%キーボードとは?
そもそも、○○%キーボードという定義は、フルサイズ(テンキー付き)のキーボードに対して、キー数がどのくらいの数になっているか、という表記です*2。
人によって微妙に呼び方が異なりますが、この記事では、数字行がないキーボードのことを「40%キーボード」と呼称することにします。

40%キーボードのよいところ
実用的な部分からすれば、ほぼすべてのキーにホームポジション*3から指が届くということです。
これは意外と重要なことで、全く手元を見ずに文字を打ち続けることが可能になります。
ここで、おそらくですが、通常のキーボードで全く手元を見ずに、また、手首を浮かさずに数字キーを打てる人はほとんどいないのではないかと思います。
手首を浮かせてしまうと、ホームポジションからの相対的な位置がずれてしまいます。そうすると、戻ってきた際に打ち間違いが発生しやすいといえます。
これに対して、40%キーボードでは、手首を動かさずに打鍵し続けられるため、相対的な位置が変わらず、慣れれば打鍵のミスが少なくなります。
また、端に配置されるキーが非常に多くなりますので、キーがどこにあるかを認識しやすい人も多いと思います。
さらに、そもそものサイズが小さいため、デスクを広く使うこともできます。
参照:
salicylic-acid3.hatenablog.com
もう一つ、忘れてはいけないポイントはかわいいことです。


40%キーボードの代表例:
Corne V4 Cherryshop.yushakobo.jp
かわいいに囲まれている方も紹介しておきます。
note.com
サイズの小ささからくる独特のかわいさにやられて、40%をずっと使い続けています。
あとは小さくてわけのわからんキーボード使ってるのかっこよくないですか
40%キーボードのデメリット
市販されていないこともないですが、いわゆる自作キーボードに手を出さざるを得ないため、やや高価になります*4。
また、通常のキーキャップセットがそのまま使えないことも多いです。印字されている文字と、実際に入力されるキーを一致させるのは通常難しいです*5。
また、最大の難所は数字キー・記号キーの大半がすぐに打てないことだと思われます。
40%キーボードの説明部分で記載した通り、数字キーがそもそもありません。よって、何らかのキーとの同時押しで入力することになるため、その配置を覚える必要があります。
しかし、逆に言えば、好きなように数字キー・記号キーを配置できるというわけです。
慣れてしまえば、すべてのキーをタッチタイピングできてしまいますし、自分の癖に合わせてキーの配置を調整できます。
キーマップとは?
自作キーボードでよく利用されるQMKなどのファームウェアでは、自由にキーの配置をカスタマイズできます。
このキーの配置のことをキーマップと呼びます。
昔のキーボードはそれこそタイプライターに付属していて、物理的にキーと印字される文字が対応していたわけですが、昨今のキーボードはもちろん電子式であり、このキーが押されたのでPC側にこのキー(キーコード)を送信します、という制御を自由にいじっても良いわけです。
通常のキーボードでは、Aキーの横にCapsLockキーがありますが、ここをControlキーにしたっていいし、Shiftキーにしたっていいのです。
他にも、通常Lキーの横には;(セミコロン)キーがあり、さらにその隣には:(コロン)キーがあります*6が、ここが左右の鍵括弧になっていてもよいのです。
また、先ほど数字キーは何らかのキーとの同時押しで入力すると書きましたが、これは「レイヤー」と呼ばれる機能を使います。
どういうことかというと、例えばとあるキーを押している間*7は、入力されるキーが変化します。
名前の通り、他の層を仮想的に被せてしまうような挙動をします。
通常のキーボードでもファンクションキーを押しながらだと音量調整になるキーがあったりしますが、イメージはまさにそれです。特定のキーを押すと通常の文字部分がテンキーに切り替わるノートPCも見たことがありますが*8、それもまたレイヤーの概念といってよいと思います。
そういわれるとそこまで大層なことじゃない気がしてきませんか?

仮に物理的に42キーしかないキーボードとしても、レイヤー切り替え用のキーを2つ用意すれば、少なくとも40×3キー分だけ仮想的に入力できるようになります。通常のキーボードが104キーなどであることを考慮すれば、十分すぎる数です。
使用頻度の低いキーは裏のレイヤーに押し込んでしまえば、その分見た目をすっきりさせることができるというわけです。
また、優先度の高いキーを使いやすい場所に置くことも自由自在です。さらには同時押ししたことにする機能もあり、ちょっとしたショートカットを一発で入力することもできます。
他にも、長押しと単押しで入力されるキーを別にすることもできます。例えば、長押しでShift、単押しでSpaceのような具合です。
あと、あまり語られることのない重要なポイントは、このキーマップはPC側に保存されるのではなく、キーボード側に保存されることです。
つまり、異なるPCに接続しても、そのキーボードを接続すれば、いつもの環境で作業ができる、というわけです*9。
物理的なキーが少ない40%キーボードを使いこなすためには、少なくとも数字キーを打てるようにしないといけないため、キーマップをどのように調整するかが非常に重要といえます。
この記事では、私が普段使っている40%キーボードのキーマップについて紹介したいと思います。
なお、私の仕事的には、日本語の入力・編集がメインですが、半角英数字の入力をすることもあれば、全角英数字の入力もそこそこ行う、という感じです。まれにですがプログラミングもします。
この前提をもとに見ていただくと面白いかもしれません。
私の40%キーボードにおけるキーマップの基本形
私が普段使っているキーボードには、拡張キーがついていたりしますが、どのキーボードでもそれ以外のキーマップは共通にしています。それを基本形としてご紹介します。
形状としては、以下の写真のキーボード(KX-52M)を例とします。





なお、縦に3つ長いキーが並んでいるのはロータリーエンコーダで、時計回りで入力されるキーが左側、反時計回りで入力されるキーが右側、プッシュが真ん中です。
また、基本的に中段が通常単押しで入力されるキー、下段がShiftを押しながらで入力されるキー、上段が長押しで入力されるキーです。例えば、上段がMO1、中段がF10のキーは、長押しでレイヤー1に遷移、単押しでF10、という設定です。
他にも「MS1」のような表記は、マウスのボタン1を表します。
以下、各レイヤーの詳細について説明します。
レイヤー0(通常レイヤー)

いわゆる論理配列はいじっておらず、アルファベット部分は通常のQWERTY配列と呼ばれるものをそのままとしています。
おそらく普通ではない点の一つが、Aキーの横がShiftになっており、Zキーの横がCtrlになっている点です。上下は逆でもよいのですが、Shiftを押す機会の方が多く、また、通常のキーボードでいわゆる標準運指*10に矯正した際の小指の動きに対する位置関係が、この方が近かったためです。
また、Pキーの横にハイフンがあり、/(スラッシュ)キーの横に=(イコール)キーがあるのも珍しいと思います。なぜここにあるかというと記号の中ではそれなりによく使うためです。
他にもやや特徴的なのは、Enterキー、Spaceキー、Backspaceキー、Deleteキーの長押しに何も置いていない点です。使用頻度が高いキーであって、かつ、押し間違いが絶対に発生してほしくないためです。
また、レイヤー1切り替え用のキー、レイヤー2切り替え用のキーの単押しに、それぞれF10キー、F9キーを置いています。それなりの頻度で全角の数字・記号、半角の数字・記号を打つためです。加えて、レイヤー3切り替え用のキーの単押しに、F2キーを入れています。ファンクションキーの中ではF10, F9に次いで使用頻度が高いためです。
あとは、左上のキーに単押しでEscキー、長押しでAltキーを置いています。私が使うソフトでは、Alt+Escを押すことがないため、特段困っていません。
ロータリーエンコーダは、左手側が上下のカーソルキー、右手側が左右のカーソルキーとなっています。
文章編集をする際にはカーソルキーを押す頻度が高いと思いますが、これを高速で押下できます。
ロータリーエンコーダがないキーボードを使うことはめったにないですが、そのようなキーボードの場合には、どこかのレイヤーのJIKLにカーソルキーを仕込みます。
レイヤー1(数字レイヤー)

次はレイヤー1です。左手側の親指の一番手のひら側のキー(水色のキー)の長押しで遷移するようにしています。
このレイヤーでは数字に関係するもの(通常の数字、ファンクションキー)を集めています。
ここで、より使用頻度の高いキーを右手側に集めています。これは、左手で長押ししながら左手で他のキーを押すのはやや窮屈で速度が出ないためです。
数字キーの配置は、通常の一行横並びの配置ではなく、通常のテンキーの配置でもなく、電話の配置に即しています。0(ゼロ)だけはO(オー)の位置にしています。
この配置になるまでは紆余曲折がありました。経緯はちょっと長いので脚注に書いておきます。*11
ところで、全角入力モード時に半角の数字を打つときは、左手の親指で長押しをして数字を入力した後、離してもう一度短く押す、という動作になります。割と直感的で使いやすいと思っています。
あと、ハイフンの位置には~(チルダ)が出るようにしています。これは数字ともによく使う記号の一つだからです。
また、半角/全角のトグルは、レイヤー切り替えキーの同時押しとなっています。
ロータリーエンコーダは、左手側がPgUpとPgDn、右手側がHomeとEndとなっています。文章作成中、よく使うのは圧倒的にHomeとEndです。左手側の長押しで遷移するレイヤーでは、よく使うキーを右手側に集めるの法則で、このレイヤーにHomeとEndを置くようにしています。
レイヤー2(記号レイヤー)

次はレイヤー2です。右手側の親指の一番手のひら側のキー(水色のキー)の長押しで遷移するようにしています。
このレイヤーでは記号系を集めています。
文章の作成をしていて、比較的多く使う記号は括弧類です。これらを左手の押しやすい位置に置いています。
通常、波括弧は、角括弧のShiftで出てきますが、このようにばらしてしまうこともできます。
その他の数字キーのShiftで出てくる記号類は、素直に数字の配置と同様にしています。
あと、記号がなんとなく似てるな、という個人的な感覚から、クォーテーションの位置にグレーブアクセント(‘)を置いています。同様の理由で、スラッシュ(/)の位置にバックスラッシュ(\)を置いています。日本語だと円記号(¥)のアレです*12。
ロータリーエンコーダーは、左手側がマウスのホイールの上下、右手側がマウスのホイールの左右にしています。
スクロールの左右は、通常のマウスではついていないこともありますので、地味に便利です。
上下のスクロールもパッとできると便利な場面が多くあり、それなりに使っています。
レイヤー3(移動操作・設定レイヤー)

最後にレイヤー3です。右手側の小指列の上のキー(水色のキー)の長押しで遷移するようにしています。余談ですが、私はこのキーを薬指で取ります。
LEDの設定用のキーと、マウス操作系、ウィンドウ等の切り替え系のショートカットを置いています。
マウスカーソルの移動などはほとんど使いませんが、地味にマウスクリック(左クリック(マウスボタン1)/右クリック(マウスボタン2))のキーはちまちま使います。戻る(マウスボタン5)/進む(マウスボタン4)も地味に便利です。
ロータリーエンコーダは、左手側がウィンドウ切り替え、右手側がタブ切り替えにしています。なお、厳密には単にショートカット(alt+tabなど)を割り当てているのではなく、マクロを使った実装*13になっています。
時間は調整可能ですが、このキーを一度押すとalt+tabが押され、0.8秒間の間はaltが押されたままとなるので、ウィンドウ一覧が出た状態になり、0.8秒間の間に再度そのキーを押すと、altが押された状態が維持されたままtabキーが押され0.8秒のタイマーがリセットされ、0.8秒の間に何も押されないとそのウィンドウにフォーカスが移動する、という挙動になります。
割と最近実装したのですが、直感的に移動できて便利です。
おわりに
2025年3月22日にキーケットが開催されました。もしかすると、そちらで小さいキーボードを買ってしまった方、興味を持った方がいらっしゃるかもしれないと思います*14。
keyket.jp
この記事を読んで、40%キーボードを使うのも意外といけそうかな、と思っていただければ嬉しいです。
ここで、もしかすると、「40%キーボードを使うようになると、普通のキーボードを使えなくなるんじゃ……」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
私は仕事でもプライベートでも変なレイアウトの40%キーボードばかり使っていますが、例えばノートPCに付属するキーボードでの文字入力に手間取るかというと、意外とそうでもありません*15。なぜか数字を打つときに一緒にShiftキーを押してしまうことがまれにあるくらいです。
また、私のキーマップの実例を紹介しましたが、自作キーボードをはじめ、ちょっと高いキーボードでは、このように自由にキーの配置と押した際の挙動をカスタマイズできます。
キーマップの調整によってキーボードの使い勝手は大きく向上しますので、ぜひご自身の打鍵の癖・キーボードの使用目的に合ったキーマップを模索してみてください。
40%キーボード、さらに小さい30%キーボードでは、キーマップを考えるのも一つの楽しみだと思っています。
小さいキーボードを使ってみていただければ個人的にもうれしいです。
この記事は、Paren48*16で書きました。
*1:通常はF1~F12
*2:通常のフルサイズのキーボードのキー数が104キーですので、42~50キーくらいのキーボードは数値上40%台のキー数ということになります
*3:諸説ありますが、FキーとJキーに人差し指が触れる位置
*4:必要なキースイッチの数など、部品数が若干減りますが、とはいえ市販のキーボードと比べて高価であることには変わりありません。
*5:しかし、昨今はオーダーメイドで印字してくれるサービスがあったりします yuzukeycaps.com
*6:日本語配列の場合です。US配列ではコロン、クォーテーションキーの順です。
*7:設定によっては色々でき、一度押した後はそのまま、押して何か別のキーを入力すると戻る、等の機能もあります。
*8:参照: faq-pc-support.connect.panasonic.com
*9:OSをまたぐと面倒とかはありますが、いくらでもやりようはあります。
*10:例えば左手の小指でQ, A, Zを押す運指
*11:最初は一行横並びの配置にしていたのですが、左親指でレイヤーキーを押しながら左手で数字キーを押す体験があまり良くなく、テンキー系の配置を検討しました。ここで、通常のテンキーだと、下側に1, 2, 3が配置されますが、日付などを考慮すると、比較的押す頻度が高いのはこれらの番号が若いキーです。これが下段にあると窮屈だなと思うことが多く、電話の配置としました。さらに、最初は全体的にもう一列右に寄っていたのですが、ピリオドが9になってしまう点、頻繁に押す0を小指で押さないといけない点などから、一列左に移動し、今の配置に落ち着きました。
*12:厳密な話はこの辺りを参照してください。 penpen-dev.com
*13:具体的には、こちらのページの github.com この実装を参照しています。 qmk_firmware/docs/feature_macros.md at master · qmk/qmk_firmware · GitHub これのalt+shift+tabバージョン、ctrl+tabバージョン、ctrl+shift+tabバージョンを同様に実装して、ロータリーエンコーダの回転に割り当てています。
*14:記事の公開日時においてはウェブカタログが公開されているので、興味のある方はどのようなキーボード等が販売されていてたかをチェックしてみてください。 catalog.keyket.jp
*15:諸説あると思いますが、個人的には形状が全く異なるキーボードだから脳が違うものと認識しているのかな、と思っています。中途半端に似ていると違いを意識せずに使ってしまい、かえって間違える、ということがあるような気がしています(例えばノートPCにおけるCtrlとFnの位置など)。