ぴろりのくせになまいきだ。

世間に平和はおとずれなぁい

「Paren48」のアルミ削り出しケースを作った話

はじめに

少し前から、アルミ削り出しケースに向けて3DP製のケースを設計していました。
piroriblog.hatenablog.com

今回、「これでもう後悔しない!」と思ったので、アルミ削り出しケースを発注しました。
ちょっとだけ後悔したポイントもありましたが、かなり満足な出来のキーボードが完成したと思います。

上面
上面と裏面
立ててみた

ちゃんとした録音環境がないので、直接触っていただくほかないですが、好みの打鍵音・打鍵感が実現できました。

JLCPCBさんへのCNC発注に際しては、copさんのこちらの記事を大変参考にさせていただきました。
この場を借りてお礼申し上げます。
note.com

以下、役に立つのかよくわからないtipsと、前回の記事では書ききれなかった構造と、感想をつらつらと書いていきたいと思います。

CNCの発注について

上述しましたが、今回はJLCPCBさんのCNCサービス*1でアルミの削り出しをお願いしてみました。
表面処理は、120メッシュのビーズブラスト+黒アルマイトでお願いしてみました。

トップピース
ボトムピース

カーテン越しの自然光で撮影したものですが、比較的実際の見た目に近い写真だと思います。
120メッシュのビーズブラストの粒子感がちょうどよく、鈍く光を反射するので高級感すらあります。
アルマイトはマットでお願いしましたが、サラサラした手触りです。
見える部分に傷はなく、また、アルマイトの染めムラもなく非常に満足です。

「見える部分に」と書いたのは、アルマイト処理は、処理液中にアルミを吊して行うと認識していますが、そのフックの痕はどうしてもどこかに残るためです。フックの痕は見えない内側にありましたので、特に問題はありませんでした。

また、トップピースにはM3のタップを切る指示をしたのですが、ちゃんと切られていて安心しました。

発注のtipsに関しては、copさんの記事にほぼすべて書かれているので、あまり追加情報はありませんが、あえて挙げるなら以下の点です。

  • ビーズブラストは120メッシュが一番安い(発注当時)

これに関しては、真鍮のウェイトを発注するときに、ビーズブラストの番手でえらく見積もりの値段が変化したので、サポートに問い合わせたところ、「デフォルトが120メッシュで、ビーズの交換が面倒だからやで」との返答がありました。
特にこだわりがないのであれば、ビーズブラストは120メッシュで発注すると最安になると思われます。
なお、アルミの場合はそこまで差がない(精々2ドルくらいの差)でしたので、アルミに関しては好みで選んでもよいかと思います。

気になるお値段ですが、1ピースにつき約60ドルくらい*2でした。
本当はもうちょっと安くできるような気もしますが、まあまあ複雑な形なので、ワンオフ品としてはかなり安くやってもらったほうだと思います。
単純な形状で、ピースの数が少なければもう少し安くなると思いますので、ぜひ皆さんもチャレンジしていただければと思います。
設計の際には、エンドミルの気持ちになりましょう。

ドーターボードについて

今回のケースで、設計が非常に大変だったのは、ドーターボード周りです。
今回は、マイコンボードとしてRP2040-Tiny*3を採用しました。このマイコン開発キットは、マイコンが実装されたボードと、USBコネクタが実装されたボードとをFPCで接続する形式になっています。まさにキーボードにうってつけですね。
マイコンを基板に直付けすることも一瞬検討したのですが、他のマウント方式の際のケースの選択の幅を狭めないようにする観点もあり、マイコンボードをつける方式としました*4。なお、このPCBには、RP2040-Zeroも取り付けられます。

このケースですが、インサートプレートマウント*5という方式をとると、ケースが2つに分断されてしまうので、どちらかのピース(厚み10 mm)にドーターボード(一番のネックは5 mmのTRRSジャック)を収めないといけません。TRRSジャックをPCBに実装してしまう手がないわけではないですが、打鍵感への影響を加味すると採用したくありません。
また、このケースですが、対称性を考えると、チルトさせたくもないし、上下ピースの厚みを同じにしたい、というデザインになってしまいました。
このようなデザインとマウント方式の制約上、上ピースにねじ込むことにしたのですが、タップを切るだけのケースの厚みがやや怪しい状態になってしまいました。そこで、ドーターボードのカバーを3DPで作製し、これで上から押さえつける方式をとりました。

ドーターボードの取り付け
ドーターボードのカバー

販売される商品でこんなのがあったらオイオイと思いますが、まあ自分しか使わないしいいか、と思って採用しました。
特にがたつきもなく固定できているので良かったです。

感想

さすがCNC、といった精度でできあがっており、エッジもきれいでニヤニヤしながら使っています。実は、3DPケースでは、ケース全体が歪んでいたのか、ロータリーエンコーダのノブが壁面に接触してしまうことがありましたが、今回はそのようなこともなく、ピッタリ中心にきています。
また、アルマイトの質感がよく、見た目的にも非常に満足しています*6

打鍵感に関しては、3DPケースのときとあまり変わりません。前回同様、インサートプレートマウント+スプリングプレートのやや硬めの打鍵感です。
ただ、ケースの素材がアルミになったことで、やや低音が強調されるようになりました。これ本当にBaby Kangaroo使ってるっけ? という気持ちになりますが、これはこれで好きです。実は、BSUN HUTT*7のGBに参加したので、届いたらこれにしてみようと思います。どんな音になるか楽しみです。
また、総重量は、片手で750 gほどになりましたので、3DPケースに比べて安定感が増大しました。

ところで、打鍵音に関してはもうなんもわからんになってきました。
PCBの下のフォームをいろいろ試してみたのですが、まず、フォームをPCBの下に一切入れない状態だと、空洞に音が響くような感じになることを確認しました。
一方で、フォームでみっちりにすると、音の響きはなくなるものの、打鍵感がだいぶ硬くなってしまいます。音色としても、無理やりされたミュートされた感があって、あまり好みではありませんでした。
そこで、PCB上のソケット間などの隙間を埋める用のフォームを単体で入れるセッティングにしたところ、残響感がちょうどよく、音色も良い感じになりました。

では、打鍵時にアッセンブリ全体が動いても干渉しない程度の薄いフォームを入れたらどうなるか、と思って発泡PPのシート(約厚さ1 mm)のフォームを試してみました。すなわち、上記のPCB上のソケット間などの隙間を埋める用のフォームとボトムピースの間に、発泡PPのシートを挟んでみました。
そうしたところ、アッセンブリの遊びが確保されているので、打鍵感には影響がないことを確認したのですが、打鍵音がかなり変化しました。かなり鋭い音が鳴るようになり、今、どういうことなのかを考察しているところです。

3DPケースのほうは?

3DPケースの方も使えるようにしたかったので、このようなインサートプレートを作ってみました。
レーザーカットは遊舎工房さんにお願いしました。いつもありがとうございます。

POM製スプリングプレート

1.5 mm厚とはいえPOM製なので、かなり柔らかめの打鍵感に仕上がりました。
タクタイルスイッチだと若干微妙な感じがありますが、リニアスイッチだとちょうどよさそうなので、リニアスイッチを搭載する仕様にして使おうかなあと思います。
リニアな気分のこちらを使う、という運用にできればいいかなと思いました。
打鍵音に関しては、空中にふわふわ浮いているような状態に近いので、プラスチックを叩いている系の音がしますが、まあこれはこれで良い、といった感じです。

今後について

個人的なキーボードの開発テーマは、打鍵する際の楽しさです。楽しさには、様々な要素があると思っていますが、中でも打鍵音の要素にはこだわって設計しているつもりです。
打鍵音の意味では、まだまだこのケースでもいじるところがありそうで、打鍵音のエンドゲームはいつになるやら、といった気がしてきました。このケースをもとに、いろいろ実験してみたいと思います。

また、今回のマウント方式では、多少マシにはなったのですが、端の部分と中央の部分で打鍵音が異なる問題はいまだに解決できていません。音の一貫性という意味では、どこを叩いても同じ音が鳴るようにしたいものですが、この方向性も模索していきたいと思います。

打鍵音に関して、他に試してみたいこととしては、『打鍵音を強調するうるさいキーボード』も挙げられます。方向性の例としては、木製のボトムプレートを使って、アコースティックギターよろしくサウンドホールを設けてやる、といったことを妄想しています。

また、Paren48のPCBに関しては、前回も書いたように、需要があるかはさておき、サンドイッチマウント方式のキットの頒布までできればいいな、と思っています。
初めてなので、そこにたどり着くまで結構かかりそうですが、気長にお待ちいただければと思います。

この記事は、Paren48(アルミケースver.)で書きました。

*1:Online 3D Printing Service | Custom 3D Printed Parts - JLCPCB

*2:つまり合計で60ドル×4でした。円安がつらい。

*3:RP2040-Tiny開発キット — スイッチサイエンス

*4:そこまでの設計をやったことがないともいいます

*5:PCBとスイッチプレートの間にさらにプレートを挟み、そのプレートをケースにマウントする方式のこと。詳細は前回の記事を参照してください。

*6:でも今度アルミの削り出しをするなら、グレーのアルマイトか色なしのアルマイトにするかもなあと思いました。黒は黒でカッコいいのですが、金属感が薄いため。

*7:[GB] XY STUDIO BSUN HUTT TACTILE SWITCH FACTORY LUBED (10PCS)