ぴろりのくせになまいきだ。

世間に平和はおとずれなぁい

一体型のキーボードを設計してみた

はじめに

一体型で気軽に使えるキーボードが欲しくなったので、作ってみました。
基板を発注するのはこの間やったので、作る心理的ハードルは比較的低めに感じました。
名前は、1/4ずつのずれを基調としたキー配列であるので、Qから始まる何かにしようと思っていたところ、たまたま目についたクォッカ(Quokka)という動物の名前を付けてみました。

Quokka完成図

検索していただければわかりますが、クォッカは、にっこり顔に見える動物です。かわいいので検索してみてください。

以下、今回作ったキーボードについて解説します。

実現したかったこと、やってみたかったこと

  • 40 %の一体型
  • 気軽に使える(=パームレストなしで使える)
  • 乳半アクリルを使ってみたい(どんな感じに光るか試したい)
  • POMも使ってみたい
  • 構造によって音がどうなるか試したい

このあたりの事項を念頭に作ってみました。

配列

見ていただいてわかるように、途中で折れ曲がった配列となっています。
いわゆるAlice配列*1は、小指列(Q列およびP列)から折れ曲がっている一方、この配列は、中指列(E列およびI列)から折れ曲がっています。
一見すると、なんだこれはと思われるかもしれませんが、実はカラムスタッガード(列方向にずれた配列)を意図しています。

実はカラムスタッガード

じゃあ普通のカラムスタッガードでよかったじゃんという話は大いにあります。私も一瞬そう思いました。
でも、だったら既にあるものでよいわけで、と思い始めて色々検討してみました。
その中で、見た目の面白さと、使いやすさのバランスを考えたところ、この配列にたどり着きました。
とはいえ、適当に作ったのではなく、今回、パームレストを使わないことを念頭に置いたので、それ用の調整はしています。例えば、比較的手を丸めて打鍵することになるため、その状態に合わせ、あまりずれ量の大きくないカラムスタッガードになるようにしています。また、そのような打鍵状態を想定して、親指キーの位置を微調整しています。
なお、例のごとく、中指列の下には、ロータリーエンコーダを配置しています。

今、この記事を書くためにQuokkaを使っているわけですが、カラムスタッガードに慣れていれば、思ったより普通に使えます。
特に、3列目のキーについては、内側にキーが曲がっているため、指を曲げた方向とマッチしやすく、割と良い感触です。

構造

今回、単に全体が一枚の板となるように、複数の板を積層していく構造を採用しました。
キースイッチや部品が配置される空間以外については、穴の位置および大きさを部品に合わせて正確にカットし、可能な限り板が配置されるようにしています。
具体的には、以下のような積層構造としています。

  • スイッチプレート(POM):1.5 mm
  • ミドルプレート1(乳半アクリル):2.0 mm
  • ミドルプレート2(POM):1.5 mm
  • PCB:1.6 mm
  • ミドルプレート3(乳半アクリル):2.0 mm
  • ボトムプレート(乳半アクリル):2.0 mm

今回もプラスチック板のレーザーカットは、遊舎工房さん*2にお願いしました。いつもありがとうございます。

今回採用した乳半アクリルは、写真で見る限りあまり透過率がないように見えますが、思ったより光は透過します。
ミドルプレート3には、スイッチソケットが収まっているのですが、裏から見ると、ボトムプレートを通してスイッチソケットの色とだいたいの形が分かる程度には透けます。
この透過率だと、どうなるかというと、結構いい感じにLEDの光が拡散します。

LEDのテスト点灯

非常に写真を撮るのが難しく、目視でのきれいさを再現できていませんが、こんな感じでいい感じに光ります。
光源の輪郭が目立たなくなるので、ぼんやり光らせたい場合は、良い選択肢になると思いました。
ちなみに、真ん中の丸い穴は、インジケータ用のLEDの透過穴です。

また、最近、遊舎工房さんの加工材料のラインナップに追加されたPOM*3も使ってみています。これも全く光を透過しない白に見えますが、上の画像からもわかるように、やや透過率があり、LEDの光くらいは透過します。
カットしたPOMを触ってみましたが、安心感のあるタイプの柔らかさがあるので、スイッチ部分とケースを接続する部材に採用すると、程よい柔らかさがあってよいかなあと思いました。
遊舎工房さんで取り扱いのあるPOMの板厚が1.5 mmなので、まあスイッチプレートに使えということでしょう。実は、この間作ったキーボード*4用のスイッチプレートも切ってみたので、また試してみたいと思います。

さらに、このような積層構造としつつ、USBコネクタ部分がきれいに見えるように工夫してみました。

USBコネクタ部分

この構造を実現するために、今回採用したマイコンボードの実装方法をちょっと工夫しています。

端面スルーホールを活用した実装

PCBの裏から、マイコンボードのコネクタ部分が表側になるようにマイコンボードをPCBに直接実装すると、ちょうど1.5 mmだけUSB type-CのメスコネクタがPCBから表側に飛び出る格好になるので、POM板の厚さにちょうど収まるようになっています。
すっきり見せることができて満足です。
実は、前に設計したケースでは、USBのオスコネクタのスリーブ部分をちょっと削らないと刺さらない、という失敗をしていたので、リベンジの意味でちょっとこだわりました。

使った感想

めっちゃ良い、というほどではありませんが、普通に悪くないかな、といった感じです。
狙った通り、パームレストなしでの使用に耐える一体型キーボードには仕上がったと思います。
ちょこちょこキーボードの位置を動かす場合には、やっぱり一体型のほうが取り回しが楽でいいなと思いました。

音に関しては、どこかで音を吸収してくれるわけではないので、プラスチック板を叩いているなあという音がします。ただ、一体化はしているので、音としては悪くありません。
今回の構造にしてみて改めて確認できたのですが、スイッチの打鍵によって生じた振動をどのような材料の部材に、どのように伝えるか、ということが打鍵音の調整において重要なことなんだなあと思いました。
このように硬めの素材で構成すると、固体中を音がよく伝わり、構成される部材そのものを叩いたような音が鳴る傾向にあるように感じます。一方で、フォームなどの音を伝えにくい素材を間に挟むと、ある程度音の伝播が遮断されるので、スイッチからの振動が伝わりうる範囲の部材を叩いた際の音が鳴るように思います。ただし、フォームは、その特性上、高音を吸収しつつ低音を通しやすいといえるので、各素材の特性も加味して、打鍵音の調整をしていく必要があると思いました。
打鍵音エンドゲームを目指して、また新たな構造にチャレンジしたいと思います。

また、今回は、積層して約10 mmのプラスチック板に近いものになっているので、よく言えば安定した打鍵感であり、ちょっと悪く言えばやや硬めの打鍵感です。
とはいえ、打鍵感に関しては、こういった硬めの打鍵感の場合、今回採用しているような弱めのタクタイル感のスイッチ*5のタクタイル感を感じやすいので、悪いことばかりでもありません。
スイッチの特性と、キーボードの構造で大まかな打鍵感が決まるといえますので、このあたりは好みに合わせて組み合わせれば、という気もします。

やや奇抜な見た目ながらも、普通に使いやすいキーボードになり、また、実験的要素も試すことができたので、おおむね満足しています。

おわりに

今回は、そんなにたくさんの部材を切りませんでしたし、金属板も切っていないので、思ったより安価(当社比)にキーボードを組み立てることができました。
例のごとく基板は4枚余っているので、欲しい方がいたらご連絡ください。カット用のデータとともにお渡しします*6

不思議なことに、キーボードを一台組み立てると、なぜか次のキーボードを作りたくなってしまうんですよね。今まさにその状態で、次はどんな構造を試してみようかと思索しています。次は、今回の知見を活かしつつ、打鍵音特化のキーボードを作れればなと思いました。

この記事は、今回作ったQuokkaで書きました。

*1:Alice配列 - Google 検索

*2:レーザー加工サービス

*3:ポリオキシメチレンまたはポリアセタールとも呼ばれる

*4:積層ケースのキーボードを基板から作ってみた - ぴろりのくせになまいきだ。

*5:Durock White Lotus / Light TactileまたはDurock White Lotus Light Tactile キースイッチ(5ピン/56g...

*6:A4サイズに収めようと思っていたのですが、他の部材と一緒にでかいサイズで切るからいいか、と思ってA4サイズに収まらないまま作ってしまったので、何か別の部材の発注のついでに切ってください……