ぴろりのくせになまいきだ。

世間に平和はおとずれなぁい

アクリル積層ケースのキーボード「floes46」を作った話

はじめに

オーソリニア*1の一体型キーボードが欲しくなったので設計してみました。
会議室でPCにてメモを作成する機会がちょこちょこ発生していたのですが、いきなりロースタッガード(普通のキーボード)を使おうとすると発狂しそうになっていたので、持ち運びが面倒でない一体型のキーボードを欲していました。

そうした折、遊舎工房さんでレーザーカットの半額セールが開始されたので、アクリル積層でケースも作るか、と思い立って作ってみました。

名前は、ケースがマットの透明アクリルを採用しようとしていた点で、なんか「氷」っぽいなあと思ったので、「氷盤」または「流氷」等の意味がある「floe」と、キー数をくっつけて命名しました。

七色に光らせてみた図

今回、スイッチはSea Glass*2を採用しています。
キーキャップはいったんKAT Alphaをつけていますが、何をつけて運用するかはまだ迷っています。

以下、このキーボードの解説をします。

欲しかったキーボードの要件

今回キーボードを設計するにあたって、求められる要件は、以下の通りです。

  • 一体型である
  • 打鍵音が静かめである

加えて、オーソリニアのキーボードのミニマルさはやっぱりいいよね、と思うところがあったので、オーソリニアの配列をベースにした配列にしようと思いました。

ここで、単にオーソリニアのキーボードを作るだけでは芸がないと思い、多少装飾にも凝ってみようと思いました。
さらに、せっかくなら打鍵感と打鍵音もいい感じにしたいと思い、ギミックを仕込むことにしました。

特徴点

上記の要件を念頭に置いて設計したキーボードの特徴点としては、以下が挙げられます。

  • オーソリニアを基調とし、左右を分離させ、かつ、最下段を分離させた配列
  • 手のひらの下にロータリーエンコーダを配置
  • 基板の中央に穴から中央の余白をライトアップする構造
  • 半透明のアクリル積層ケース
  • アクリルのスプリングプレートによるマウント

また、アクリルが中途半端に余ることがわかっていたので、パームレストも作ってみることにしました。
以下、それぞれの特徴点について説明します。

配列

オーソリニアを基調とした、左右に分離した配列です。
一度、オーソリニアのキーボードは設計したことがあったのですが、使っていて改善すべきと感じるポイントがいくつかありました。
その一つが、親指キーの位置です。

オーソリニアの配列では、小指側が特に下がっていませんので、手をハの字にして構えることになります*3
そうすると、親指の動く向きが上下方向に近くなり、内側のキーを親指で押そうとすると、空を切る場合がありました。
この点から、親指キー全体を下げることにしました*4

floes46の配列スケッチ

また、オーソリニアの親指キーが4キーあると、迷ってしまう場合がありました。
オーソリニアのミニマルさをややスポイルしている感はありますが、ロータリーエンコーダを手のひらの下あたりに搭載するようにし、触覚上の区切りとしました*5

加えて、最も外側のキーは、素直に長方形に配置してしまうと、小指の付け根が当たってしまうことがあり、0.5u分内側に配置するようにしました。

全体としては、オーソリニアらしさを残しつつ、使いやすさも損なわない配列になったと思います。

ケース

ケースは、とにかくきれいに光らせたかったので、透明系のアクリルにしようと思っていました。
色々考えましたが、乳半のアクリルよりは、マットクリアくらいにしておくのが透明感も残ってよかろうと思い、マットクリアを使っています。

ケースだけで撮影したらレンダリング画像みたいに撮れた図

マウント方式は、基板とスイッチプレートをスプリングプレートに固定し、スプリングプレートを介してケースに固定する方式を取っています。
この方式は、前回設計した「Paren48」でも採用した「インサートプレートマウント」になると思います*6。スイッチプレートをスプリングプレートとしても良かったのですが、ケースの上面とキーキャップの裾の位置を調整する関係上、この構成を採用しました。

なお、積層構成は以下の通りです。

積層構成の概略図

メインのアクリルは3 mm、スイッチプレートは2 mmとしました。

スプリングプレートの設計に関しては、前回同様にたわみ量を計算し、ステンレスのプレートよりは柔らかくなるようにスリットの長さ等のパラメータを設定しました。
今回はケースが長方形ですので、スプリングプレートの設計は結構簡単でした*7
ところで、アクリルというと耐久性にやや不安がありますが、途中で基板がケースに引っかかるようにし、1.5 mm以上の変位は発生しないようにしています(上記図参照)。まあ最悪割れたら割れたで作り直せばいいか、という精神で設計しました。

スプリングプレートに取り付けたアッセンブリ

また、左右に分離した配列としたため、ケースの中央部分に余白(通称「仏陀スペース」)が生じます。
透明ケースだと、その余白から基板が透けて見える形になるわけですが、単にそれでは面白くないと思い、基板自体に大きな穴をあけておき、アンダーグローの光が反射して上側に抜けてくるようにしてみました。

下に配置されるものの色にもよりますが、アンダーグローの光が反射されて見えるので、狙い通りにできたと思います。
ただ、黒い机などに置くとほとんど反射しないので、底面に何か仕込むかなあと考えています。

パームレスト

まあまあな面積のアクリルが余りそうだったので、パームレストも作ってみました。
木のパームレストを持っていはいますが、やや大きいなあと思っていたので、コンパクトなサイズのパームレストがあってもいいなと思っていました。
また、円形のパームレストをアクリルで作ったことがあるのですが、安定しない(それはそう)ので、あまり使っていませんでした。

今回、ほぼ見えない位置ではあるものの、基板自体に装飾を施していました。
この装飾には、敷き詰めパターンの一種である「floret pentagonal」というパターンを採用しています。
この模様を採用したのは、正六角形の敷き詰め模様に近く、氷のイメージとマッチするためです。

基板銅箔による装飾

基板の模様はほとんど見えないのですが、それはそれでもったいないと思い、パームレストにこの模様を採用した装飾を入れてみることにしました。
この模様は、彫刻ではなく、実際にこの形状にカットされたアクリルの層が間に挟まっている形になります。

積層アクリルパームレスト

ほどほどに模様を主張してくれるし、光が回ってきれいなので、結構お気に入りです。
なお、マット系のアクリルは、手触りがサラサラとしているので、あまりべたつかず、パームレストなどの直接触れる部分には向いていると思います。

感想

スイッチをSea Glassにしましたので、打鍵音はかなり静かです。
また、基板の下に空間は存在しているものの、スイッチプレートと基板の間にはアクリル(スプリングプレート)が配置されているので、音が響くということもありません。

それにしても、Sea Glassはいいスイッチだなあと思います。前も書いたかもしれませんが、色が5色混合されていることに注目されがちですが、タッチが軽く、なめらかなスイッチです。目立ったノイズもありませんので、特に追加でルブをする必要もなく、ストックで使えます。
また、あまり知られていませんが、プログレッシブスプリングが採用されていますので、押し始めは軽く、底打ち時にはやや重たくなる特性があるので、ふわっとした打鍵感が味わえます。

なお、他のそこそこ底打ち音がうるさいスイッチをつけてみると、あまり癖のない音が鳴る印象を受けました。
音量としては、インサートプレートでケースに固定されているため、ケースとの音響的な結合度が中程度であり、かつ、材質としてほとんどケース自体からの音があまりしないため、音量はやや控えめ、といった具合に思われます。
他のスイッチでもよいと思いますが、この現状のセッティングが結構気に入っているため、しばらくはそのまま使おうと思います。

打鍵感としては、スプリングプレートがなかなかいい仕事をしてくれているので、底打ち感がかなり柔らかくなっています。ただ、ぽよんぽよんして安定しない感じではないので、打ちにくさは感じていません。
打鍵していると、スプリングプレートが振動しているのを感じることができますが、音として感知しにくい程度の低周波の周波数になっているように思われ、また、振動の持続時間も長くないので、ちょうどいい感じに仕上がったのではないかと思います。

親指を下げた物理配列を採用しましたが、実際に使用していても、他のカラムスタッガード系の配列と似たような感覚で使用することができています。
親指が空を切るのは結構ストレスだったので、手が大きめの方は試してみても良いかもしれません。

また、親指が担当するキーを3キーに減らし、ロータリーエンコーダがあるため、打鍵時に迷うこともなく使えています。
やはり、ロータリーエンコーダはこの位置にないといけないような気がしてきました。

ケース全体の見た目としては、全体的に狙った通りにできたと思います。反射光を利用しているので、その点に関しては調整の余地がありそうですが、きれいに光っているのでいったんはよしとします。

おわりに

今回、会議室で使う割にはずいぶん派手に光るキーボードができてしまいましたが、見た目だけでなく、打鍵感、使い勝手なども比較的よい出来に仕上がったので満足しています。
プラケースもプラケースでいいなあ、と思いました。

基板のデータ、ケースの設計データは公開しますので、規約の範囲内でご自由にお使いください。そのまま発注できるデータもあります。また、スイッチプレートと基板のみでもキーボードとして運用できると思いますので、そのような構成で作製いただくのもコンパクトでよいと思います。
piroriblog.hatenablog.com

この記事は、今回組み立てたfloes46で書きました。

*1:碁盤の目状の配列のこと。

*2:Durock Sea Glass Switches / Linear

*3:この点については以前論じました キーボードにおける物理配列に関する考察 - ぴろりのくせになまいきだ。

*4:スペースだけが下がっている配列の構成は昨年たまに見かけていたので、採用してみたかったのもあります。

*5:私が設計するキーボードのいつもの配列であるとはいえます。

*6:参照: 分割キーボード「Paren48」を作っている話 - ぴろりのくせになまいきだ。

*7:前回のケースは円弧が含まれていたので、その部分の作図が結構面倒でした