ぴろりのくせになまいきだ。

世間に平和はおとずれなぁい

身体の中の触媒を見習って

オキシドール(薄い過酸化水素水)にレバーを入れる実験をやったことがある人っているんでしょうか。
なぜか知らんけど泡がシュワシュワ出てくる、ということくらいは知っている人はいるかもしれません。

二酸化マンガンも同じくオキシドールに入れると酸素の泡が出てきますが、こちらは知っている人が多いかもしれません。

両者とも要するに、過酸化水素(H2O2)二分子が分解して酸素(O2)一分子と水(H2O)二分子になる反応を促進していることになります。
(ちなみに過酸化水素水は放置していても徐々に分解が進む物質です。濃度にもよりますが。あと高濃度のやつは劇物なので取扱注意です。)

自身は反応の前後で変化しないが反応を促進させる物質を「触媒」といいます、ということは中学校で習ったと思います。


ちなみに前者は生体触媒、もしくは「酵素」と呼びます。
デンプンを糖に分解する酵素はアミラーゼといいましたね。
(断っておきますが、わたしは酵素について中学生以上の知識を持ち合わせていません。何か間違っていたらご指摘ください。)

後者は普通に「触媒」ということになるのですが、そもそも触媒のカテゴリに「均一触媒」と「不均一触媒」があります。
読んで字のごとく、均一か均一でないか、ということになります。

何が均一どうかというと、触媒を液体等に均一に溶解させて用いるか、固体のまま用いるか、ということになります。
酸触媒(ただの酸)や錯体触媒は均一触媒、二酸化マンガンのような粉や塊(固相)のようなものは不均一触媒ということになります。


本題から逸れるので深追いはしませんし調査もしておらず申し訳ないのですが、ナノサイズの議論をしてきた身としては、粉っていっても色々よな?と思ってしまうところがあります。
コロイド溶液はどっちなんだ?となりますし、酵素も水には分散するものはするだろう、という話になってくると何をもってして分類するんだ?となってきます。
時間があるときに調べてみます。



本題に戻ります。

ここで酵素はすごいと思うのが、基質特異性という性質を備えている点です。
基質特異性とは、特定の分子のみの反応を進行させることを言います。
逆に言うと、それぞれの酵素は特定の反応しか起こせないことになります。

これは工業的に多く用いられるいわゆる不均一触媒からすると非常に特異なことで、不均一触媒では大抵いらんものも反応させてしまいますし、目的以外の物質も生成してしまうことが多いです。

この基質特異性が発現する原理としては、酵素が分子の形とピッタリ合うような形をしているから、という理解がされています。
しかし形が合うからといって必ずしも反応が進行するわけではなく、何かをくっつけたり何かをぶん投げるためのタンパク質以外のもの(補因子)を持っている場合があります。
補因子が適切な位置に存在することで反応を円滑に進めることができます。

つまり、酵素は適切な空間と適切な配置にある反応に関わるものによって、特定の物質のみを反応させることができるわけです。


この考え方を不均一触媒に適用する試みがあります。
最初にやった人が何を考えていたかはわかりませんが、二元機能触媒が一つの例だと考えています。

精密な制御には至りませんが、別の機能を持つ触媒を混ぜておく、というものになります。
ある一定の確率で適切な距離に存在する触媒が存在するでしょうし、多段反応として目的の反応を進行させる、ということもあると考えられます。
詳しくないのですが、石油化学のプロセスで用いられる触媒にあるようです。


これをナノレベルまで突き詰めていった例として、燃料電池の触媒が挙げられます。
燃料電池とは、水素と酸素が水になる反応から電気エネルギーを取り出す(水の電気分解の逆を起こす)デバイスのことですが、燃料となる水素には水素の製造プロセス上どうしても一酸化炭素が含まれています。

固体高分子型という燃料電池(エネファーム等)では水素を反応させるための触媒としてプラチナが使われていますが、プラチナは非常に一酸化炭素と結合しやすく、一度結合してしまうと表面から離れないため、水素を反応させる機能が失われてしまいます(被毒)。

ここで、市販されている燃料電池の触媒は、プラチナに加えてルテニウムがナノレベルで混合されたものが使用されています。
プラチナの隣にルテニウムがあるような状態を考えてもらえれば良いと思います。
ルテニウムは何をしてくれるかというと、表面に酸素を含む分子をひっつけてくれます。
もしプラチナに一酸化炭素がくっついてしまっていても、ルテニウムにくっついている酸素によって二酸化炭素へと反応して脱離し、プラチナの表面がリフレッシュされます。
(Watanabe, et al., Denki Kagaku, 40(1972), 210)

メタノールエタノール燃料電池の燃料として用いる場合、特に一酸化炭素によるプラチナの被毒が激しいため、ルテニウムと複合化された触媒が用いられます。


単純に、これくらいの量を複合化した触媒にすればこれくらいの平均距離になるから、この反応がうまいこといくだろう、ということになります。

ちなみに、この類の設計は錯体触媒ではかなり容易で、反応部分をにょきにょき生やせば良いらしいです。
比較的簡単に目的のものを狙った距離に置くことができるらしく、反応性も高いものがあるとのことです。
しかしなにせ耐久性がないとのことで、自由に制御できるという意味で夢はあるけど、とても儚いものらしいです(錯体化学の人が言っていました)。


また、空間を制限するという意味での酵素の模倣はなかなか困難となります。
理由は、分子レベルの大きさの構造を作ることが非常に難しいからです。
その意味では、タンパク質のフォールディングによって空間を作り、反応部を適切な位置に固定するという酵素は純粋に良くできているなあと思います。

もし空間の制限を実現させようと思ったら、高分子と触媒の複合体や、ゼオライトのような多孔体、MOF(Metal Organic Framework)のような自己組織体あたりがアイデアとしてあるのですが、多分探せば出てくると思います。


触媒反応のための空間を作り、反応をデザインする、というところが不均一触媒の次のステップかなあと個人的には思います。

触媒は世の中を変える力を持つと言っても過言ではないと思いますので、いつかそんなことができればいいなあと思いながら日々アイデアを探しています。