ぴろりのくせになまいきだ。

世間に平和はおとずれなぁい

料理は実験

同期「料理は実験してるみたいで好き」

おっさん「化学合成と料理ってやってることからして似たようなもんだよね。リパルプ洗浄しなくていい分、料理のほうが洗い物少ないけど。」

えらい人「料理がうまいやつは研究もうまい」

などというコメントを働き始めてから聞いたことがあるので吟味してみたいと思います。



出来上がった料理にはどのような要素があるでしょうか。
わたしは「味」「食感」「見た目」の3つだと考えています。
これらの要素は、料理を作る人が食材や調味料を選択し、様々な単位操作を行うことで形成されていくと考えられます。

料理といえばだいたい食材を加工し、下ごしらえをし、加熱し、味付けをして盛り付ける、というプロセスを通るかと思います。
それぞれの単位操作を考えてみると、実に様々な化学・物理現象が関わっているものだなあと思います。


思いつく限りの現象や手法をざっと挙げてみます。

・浸透圧で水分が出てくる
・温度による伸縮・膨張で水分が出入りする
・切り方で水分の出入り量が変化する
・水や油に対して特定の成分を抽出する
・抽出温度によって抽出速度と物質が異なってくる
・温度によって物質の溶解度が変化する
・粘性の違うものは一度に混ざりにくい
・泡ができる
・水と油が分離する・乳化する
・加熱や冷却によって液体の粘度が増加・ゲル化
・加熱容器が水や油をはじく
・加熱容器の材質によっては火のそばだけ焦げ付く
・タンパク質が熱変性して固まる
・温度と圧力によって水の状態が変化する
・特定の菌が増殖して風味が変わる
・殺菌作用のある物質で変質を防ぐ
・水分を減少させて長期間保存する

…などなどたくさんあると思います。

それぞれの単位操作の裏には、様々な学問が潜んでいるというわけです。


さてここで、作り方を知らない料理を作ろう、と思い立ったときのことを考えます。
皆さんはまず何をするでしょうか。
このご時世ですし、検索エンジンに「〇〇 作り方」とか「〇〇 レシピ」とか入力すると思います。

つまり先人の知恵を借りようとするわけです。

これって論文やパテントの検索に便利なG○ogle Scholarに書いてある「巨人の肩に立つ」と同じことじゃないでしょうか。

様々な文献にあたって、「これを使ってこの手順でやるとこうなってどうなってできる」ということをわかってから、いざ食材を切ったり炒めたりするわけです。


ではその料理ができたらどうしますか?もちろん食べますよね?

その料理を食べてみると、美味しかったり微妙だったり不味かったりダークマターだったりするでしょう。


そして次にもう一度その料理を作るとしましょう。
向上心のある人であれば、前回はちょっと微妙だったなと思ったら、今回はこうしてみようと考えると思います。

何故微妙だったのかを振り返り、これをこうすればきっと美味しくなる、と工夫をするのではないでしょうか。

これを繰り返して料理を美味しくしていくプロセスは、仮説と検証(実験)を繰り返して物事を明らかにしていく研究のプロセスそのものではないかと思います。

めっちゃ美味しいものができたら、人にレシピを教えたくなることもあるでしょう。
他の人が再現できるようにめっちゃ美味しい料理のレシピを書いたら、それはほぼ論文のようなものです。
こうして人間の知は積み上がってきたのです。


ここでさらに、料理を美味しくする方針を考える際に必要なことを考えてみたいと思います。

生焼けだった、というような比較的単純な場合は、焼く時間を長くする、加熱方法を変更する、といった方法がすぐに浮かびます。

しかし大抵の料理は複数の工程を経て作られ、完成品の状態には様々な要素が絡んできます。
そうなってくると、どうしてこういう味・食感になったのか、こういう見た目になったのか、といったことはすぐに浮かぶものではありません。

そこで重要になってくるのは、先程ずらっと挙げた単位操作を理解することであると考えます。

単位操作を行った場合、また行う際に「こうすると〜の理由でこうなる」ということを理解していれば、微妙だった要因は恐らくこれで、これをこうすれば良さそう、という方針が立てられます。

これは原理・原則の理解であり、実験を行い、研究を遂行するうえでも欠かせません。



以上より、料理は実験であり、料理を美味しくしようとするプロセスは研究そのものであると言えると思います。
その探求や改善の努力を書き記したものによって、人間はここまで繁栄し、わたしたちは美味しいご飯が食べられるわけです。


「料理が上手いやつは研究もうまい」という説はまあまあ的を得ているのではないでしょうか。
あと理由を付け加えるなら、手先の器用さが必要な点かもしれませんが。